丹羽長秀の家紋は建物を補強する「筋かい」
先日宴席で、不思議な話を聞きました。その人は、百年以上続く旧家の当主。もう十数年前のことになりますが、本人曰く100回以上見合いをしても、なかなか結婚相手が決まらなかったそう。そんな状態が続いていたとき、ぜひ嫁入りしたいという年下の女性が現れたと。
結局彼は、その女性と年の差婚。子宝にも恵まれたので良かったのですが、「どうして自分なんかと結婚したんだろう?」と、彼女の真意を量ってしまうことも……。ところが結婚して数年が経ったある日、あるものを発見したことによって、彼女への不安が一掃。逆に彼女との縁を強く感じたのだとか。
発見したあるものとは、屋根瓦の家紋。彼の家の屋根瓦の一部には、自分の家の家紋とは違う家紋が。自家の家紋は知っていても、他家の家紋まで知っている人は、そうそういない。だから彼の家でも、「大昔に作業した瓦職人のミス?一体どこの家紋?」と長年不思議に思っていたのだそう。
それが何と、その年の差婚のお嫁さんの実家の家紋だったのだとか。「あれ、うちの家紋だよ」と気付いたのはお嫁さん。ですが、なぜ嫁ぎ先の屋根瓦に自分の家の家紋があるのかは実家に聞いてもナゾ。でもやはり皆で、不思議なご縁を感じたという話。
私としては、まだ若いのに実家の家紋をちゃんと記憶している、そんなしっかりした女性、先祖を重んじる心がある女性だからこそ、旧家に招かれたのではないかと思った次第です。にしても、瓦に他家の家紋が紛れ込むことがあるなんてビックリですね。
そもそも家紋とは、昔から伝わる各家の紋章のこと。平安時代の公家の間で起こったとされており、後に武家や一般庶民にも使われるようになりました。家紋は、その人の身分・家格などを示すもの。ですが、公家が他家の牛車と間違わないようにとか、武士が戦場で敵味方がはっきりわかるようにだとか、そういった目印としての役割も担ってきました。
ヨーロッパにも古くから紋章は存在しますが、家紋として使用しているのは王侯貴族のみ。家紋は、日本のように一般庶民が持てるものではなかったようです。しかし誰もが持てるからと、縁もゆかりもない氏族や有名どころの家紋を使うのはタブー。真田六文銭や徳川葵をパクる人は、そうそういなかったでしょう。
ちなみに家紋には、井桁・井筒・庵……といった建築物に関係するものも多くあります。戦国武将、丹羽長秀の家紋は筋かい。単なる×印。ですが筋かいは、建築物を補強する部材。諸説ありますが、この家紋には、家や城を守るという強い思いが込められているそうです。
現代では家紋は、墓石や紋付(着物)くらいでしか見る機会がありません。屋根瓦や門、調度品などに家紋を見ることは少ないでしょう。とはいえ家紋は、先祖代々受け継いできた大切なもの。これを機に、自分の家の家紋を再確認してみてはいかがでしょうか。