プロでも2時間かかる仕事を30分では出来ない!
以前、広告代理店に在籍し、不動産広告などの校正+ディレクションをしていたことがあります。内校・初稿・最終校正と、毎回限られた時間内に大量の校正を1人でやらねばならず、休憩はかろうじてトイレに立った時の数分。昼食・夜食は持参したおにぎりを、校正しながらかじるという、耐久レースのような仕事でした。
その際気付いたことですが、原稿を作成するデザイナーは6、7人。そして私が赤入れをすると、「見落としてました、ありがとうございます」と言う人と、「チッ!細けーな」とばかりに嫌な顔をする人の2タイプがいたということです。
不動産広告の場合、校正といっても単なる文字の間違い探しだけではありません。不動産広告のルールに則って、専通・セットバックなどの計算、私道持分・共有部分などの確認をするのに加え、画像やキャッチコピーが適切かどうかなど、諸々チェックが必要。
適切というより、お客様目線でみたときに、魅力的あるいは不快に感じないか。ですから、難しくて読めないような漢字を使ったコピーはNG。もしくは、せっかく三方角地なのに、それとわかる画像でなければ差換え指示。当たり前のことです。
そもそも、クライアントあっての仕事。ですから、私たち制作サイドにお客様目線がないこと自体がおかしな話。ですが、タイトな時間制限があって作業している現場では、ミスが多かろうが雑だろうが、早く仕上げている人の方が“仕事ができる”という評価を受けていました。つまり、質よりスピードってこと。
時間をかけて正確でいい仕事をするより、適当でも早い方がいい。その際のミスは、誰も気付かなければいいのだし、という恐ろしいスタンス。それに近いことは、建設作業にもいえること。当サイトコラム「【建築職人】見えかくれ部分は手を抜いていい場所という意味ではない!」で書いたように、バレなきゃいいという体質はどの業界にも存在するのです。
だからといって、ムリな工期をムリして間に合わせても「プロなら当然でしょ」。しかも万一ミスが見付かれば、「プロのくせに」。ミスを肯定する気はさらさらありませんが、何でも「プロなんだから」で片付けられたら、たまったもんじゃありません。
とにかく早くということになれば、やっつけ仕事をするか、自分が病むほどムリをするしかない。しかも「プロなんだから」に加え、「お客様は神様、客の言うことは絶対だから変更して」のコンボ攻撃をされたときには、もうはらわたが煮えくり返ります。
そもそもプロというのは、お金も時間もかけて専門的な知識や技術を習得し、それで生計を立てている人のこと。例えば、素人がDIYで棚を作るのに半日かかるとします。それを1、2時間で出来るのがプロの職人。
「じゃあ30分でやって、プロなんだから出来るでしょ」というのは、プロというのをはき違えているとしか言いようがありません。しかしそういう認識の人って、意外に多いんですよね。
早く正確にできるのがプロという考えは間違っていませんが、ムリな工期でもコンプするのがプロだというのは違うかと思います。プロが全力で2時間かかる作業を30分で終わらせるなど、まともにやっていたら、どう転んでもムリなのですから。
そういう誤解があるから、手抜き工事による欠陥住宅が後を絶たなかったりするのではないでしょうか。どこの現場も人手不足の上、カツカツの工期。結局、1人で何人分もの仕事をこなすハイスペックな職人への負担によって、現状成り立っているような気がします。
その人たちが潰れてしまったら、施主にしろ元請にしろ、どうするつもりなのでしょうか……。